未来がまだ懐かしかった頃/小原あき
 
未来がまだ懐かしかった頃
人々はそれぞれの
大切なアルバムに
過去や現在や悩みなどと一緒に
未来を貼りつけていた
わたしたちには
過去や現在や悩みや
未来がこなくなっていたから
それらを開いて
懐かしんでいた



未来がまだ懐かしかった頃
人々は穏やかだった
過去や現在や悩みや
未来がこないわたしたちには
不安もこなかった
進んでいるようで
止まっているようで
戻っているような
そんな時代を生きるというのは
空に浮かぶ飛行機雲が
さっき見た飛行機雲か
違う飛行機雲か
そんなことすら
なんでもないことのように
感じてしまうのだった



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