未来がまだ懐かしかった頃/木屋 亞万
 

ずっと憧れて、いた





夏休みの朝
テレビで見た
再放送のアニメのなかに
確かにいた未来の自分
喜怒哀楽の衝動的な力を
うまく取り込み
たのしめている自分

身体の感覚は
無意識に溶けてゆき
意識が洗練されている
無駄のない自分



雨戸の閉まったままの
少し薄暗い部屋
ラジオ体操のあとで
あくびを噛み殺しながら
毎年同じアニメを見る
スタイリッシュな未来を
膨らむままに想像しては
待ち遠しく思えた

蝉が騒がしく競い鳴き
鳩は巻き舌で笑う
車がマンホールを
踏み付けるたび
ダダンと怒る夏の朝
未来がまだ懐かしく
感じられていた頃

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