夏がただ過ぎていく/松本 卓也
 
本当にいつの間にか
風に冷たさが混じっていた
またしても気付かぬうちに
季節を越えようとしている

組合わせた言葉に弄ばれながら
少しずつ確かに空が褪せていく
本当についこの間に
新しいタオルを買ったばかりなのに

白髪がまた増えただとか
髭がまた濃くなったとか
右肩の後ろが痛いとか

繰り返したいつもに隠れて
徐々にすり減らしていく
かつて夢と名付けた残像は
食い潰すほど残っているのだろうか

帰宅して摂る水分の
三割はアルコールで
日付が変わり始めた頃に
Tシャツが裏返しなことに気づく

もう自嘲する気力さえなく
布団が与えてくれる幸せだけを
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