雨傷/有邑空玖
図書室の窓から翔び立てないのは
寒い夏に死んだ少年
今も「銀河鉄道の夜」を繰り返し開いては
雨を憎んでいる
薄暗い廊下 薄暗い教室
チカチカと切れかけの蛍光灯
チョークの白 黒板の暗緑
シトシトといつまでも止まない雨
雨降りの校庭には
死んだ生徒の霊が出るから
連れて行かれないように
赤い指輪はポケットに仕舞って
幼い日の約束くらい
大人に成れば忘れられるなんて嘘
初出:朗読イベント「花いちもんめ」にて朗読。
「雨傷」は、イノウエチハルの銅版画集「雨傷」より引用しました。
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