ワイシャツ/松本 卓也
 
右肩から首筋に響く痛みは
今日も自由を食い潰して
幾許かの金を得るためにだけ
言い訳をした証しに他ならず

晩夏の空が奏でる歌は
甲高い声で泣く女がするフリのよう
欠片さえ心象を捉えることはない

互いに同情を擦りながら
現在を甘んじるしかない三十代
平凡に生まれ過ごした青春の残骸に
口の端を歪める程度の抵抗しか出来ず

涼風を浴びながらなお
風に吹かれる己が身を
呪わずにはいれない

さて、酒を喉に注ぎ
肺を煙で汚すだけの夜を過ごそうか
甘んじた末かどうか知らんけど
少しは疲れが紛れるのならば

首元が緩みきったシャツや
垢に汚れたハンカチなどは
洗濯機に流してしまおう

流した汗が染み込んで
抱えた荷物に磨り減った
ワイシャツが少しでも
軽くなればいいんだけれど


戻る   Point(0)