西瓜へ架る虹の潮/詩集ただよう
 
あった。

ほんの、あれはほんの短い夕暮れのような、幽玄めいた時の流れだった。私が二ヶ月たらずの時間を過ごした港町を移ることが、電話のベルからきまった日があって、とにかく、帰り道に脇を締め、ずかずかと砂浜を訪問した私に対して蟹の群れは一斉に横走りし、八方に引いていった。夕暮れのおだやかな波に置き去りにされたのであろう蛸をぐるりと、わに避けていった。入り江の方までいって、乗り上げたさまた号のたもとをかき、潜り込む蟹もいた。

転勤であったことは伝えずに別れだけを告げたあと、一人歩き回った砂浜で「ドン」と胸に打ちつけた小さな拳が全ての蟹を退けたように、動かない蛸のまわりに駆け寄って「ずん」とはだしで踏みつけると、波打ち際に一箇所、墨が染みていった。足の裏も黒ずんで私はふんとした。

その二ヶ月たらずで伸びきった襟ぐりのティーシャツを着て、私は海水へ走った。胸までの浅瀬まではひと思いに、ジャンプしたり、泡をたて、潜り込み、声をあげて、腕を振りまわし、はしゃぎまわっていった。あまりにも正しかったわずか一瞬のことを思い、必殺エルボードロップで空をきった。

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