ナイフ/AKiHiCo
向こうには誰が棲むのか
切り取った胸の抉れた部分に口付けを
甘い香り悲しい亡骸これこそ美味
肉体を引きちぎり頬張っておりますと
警察らしき人々がこちらへ向かってきます
地面に滴る鮮血は水溜りの如く
いつかの梅雨を思わせました
「お兄様と蛇の目傘を差してまたお散歩したいです」
笑い声が支配ゆる宵に
抵抗するでもなく手錠を嵌められ
檻に入れられました
身体の火照りも治まりました
「今夜はしくじってしまいました。何と言い訳いたしましょう」
嵌められた手錠を
手持ち無沙汰のようにかちかちと鳴らす
「僕が殺めた事にしましょう。ねぇ、お兄様」
薄暗い檻の中冷たい床
「実際、お前がしたんじゃないかい」
「そうでした」
身体を冷たい床に倒しました
「僕はそろそろ寝ますね。おやすみなさい」
溢れ出る涙は頬を伝って何処かへ消えました
母上はどうして私を置いて自害なされたのでしょう
そのやり取りを見ていた監視員は筆を走らせた
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