ナイフ/AKiHiCo
 
「お早う御座います、お兄様」
内側で弟が目を覚ましました
外に出たいと心臓に針を刺します
「もう少し待って。あの木陰に行かせて」
傍から見れば奇怪な姿でしょう
何時から弟が
私の中に棲むようになったのでしょうか

黒髪の小柄な弟は病弱で
何時でも私の裾を掴んで後ろに隠れる子でした
知らない人には特に警戒心を剥き出しに
「お兄様、お兄様」と呼んでおりました
私が生まれる前に父上は死去していたそうで
弟も私も父上の顔を知りません
母上も身体が弱く週の半分は床に就いておりました
額に滲む汗がとても麗しく思えた頃も
ありましたが。

木陰に入ると弟は私の肺を無造作に掴ん
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