「軟弱者」/広川 孝治
 
たルージュが艶やかで
顔にかかる髪の毛を
かき上げてやるとなんとなく
このまま君を抱きしめたい
そんな気分になってきた

店に流れる音楽は
ムードをせっせと高めるし
ほどよく飲んだアルコール
気持ちを大きくしてくれる

それでも僕は頭を振って
君を抱えてタクシーへ
なんとか住所を聞き出して
家まで送り届けたら
タクシーの降り際に
君がつぶやいた
「軟弱者」と
少し寂しそうに


僕はもう
土砂降りの中
二人で自転車に乗って
漕ぎ出す勇気は持っていない


一人残ったタクシーの中で
自分のネクタイを締めなおすと
家に向かって走らせる

街灯の光が次々と僕の横顔をなでてゆく
軟弱者の横顔を・・

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