八月のフラグメント/しろう
潮騒が耳の奥でいつまでも鳴りやまない八月も
半ばを過ぎて
レース糸を通したように陽光が柔らかくなる
ヒグラシもそろそろ日の目を見たくなるだろう
「おまえを必ず守る」なんて言葉を
いともあっさりと口にできた頃には
日の光に立ち向かうような強さについて
思い悩む必要はなかったのだろう
「あたしのソファになって」なんて言葉を
飼い猫を見る目で言った女の在りようが
一冬越えてようやく理解できた頃
僕は座椅子くらいにはなれる気がした
日が傾けばこの部屋にも
茜色の光が射し込み始める
日陰で寝ころんでのびていた
野良猫もあくびをしてみせる
セミの声も人の声も
わりとあっけらかんと死ぬから
おちゃらけたナンセンスで
人生を浪費してもいいだろう
マーマレードの光を浴びて
散策するのもいいじゃないか
何の意味さえ見出さなくても
それが幸せのクォークなのだよ
潮騒が耳の奥でいつまでも鳴りやまない八月も
波打ち際の足跡のように通り過ぎる
日向に置かれたソファには
まだまだ到底及ばずながら
戻る 編 削 Point(5)