祖母へのお手紙 .../里欣
たが
ばあちゃんは春の香椿の葉っぱを きれいに水洗いし、食卓一杯の深緑を広げ
子どもたち分の塩漬けを作った
錦を飾れないわたしに「夏に待っているよ」と言ったが
ばあちゃんが潔く離れた
まだばあちゃんの声を聞きたい
まだこの陽気な機知に満ちた頬に
キスしたいと悲しむわたしの手へ
眠った祖母の右手から伝わってきた
ぎゅっと。集中された何かの念力。
腕相撲をしたこの蒼古な青筋はかつて
小さなわたしを抱え
夕日の岸で川を眺め、川の音を聞いた
その日、ばあちゃんは
樹の形を諦め、逗留もせず
未曽有
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