朝のイマージュ/佐野権太
 
それは
細く透明な糸に操られた
いっぺんの羽である
淡いひかりに温められた石のうえに
ふわり、着地しそうにみえて
寸前で自由に浮上する

どこかへ帰着しようなどという
よこしまな結び目はない
呼吸のリズムに
するすると導かれる
その先端には
常に開放された空がある

ときに
憂いをもった白い繊毛が
内側をなめらかに摩擦する
風波にかよわく吹き流されて
尾をひくしなやかな声紋を聴く

しかし
それをとらえようとすれば
いつのまにか
すっくと健康な関節を屈伸させて
また水色の空を泳いでいる

ただただ
あこがれのように
仰ぎみるばかりである






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