暮らすように歌う/小原あき
彼女の歌はどこでも聴ける
初めて会ったとき
彼女の肩には音符が乗っていた
飼っているの、と
なんでもないことのように話してくれた
触れると柔らかくて
すぐに歌いだした
それは彼女の唇からなのか
それともヒメと呼ばれた音符からなのか
わたしには区別がつかなかった
彼女の歌はどこでも聴ける
通学途中の電車の中
実習中の教室の中
二人で出かけた映画館の中
彼女の歌は
わたしの沈みやすい気分を
天高く浮かび上がらせる
だから、わたしは彼女を必要とした
彼女の歌はどこでも聴ける
だけど、カラオケに行くと
ヒメはいなくなる
彼女は急に無口になる
彼女
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