捻くるひと/恋月 ぴの
 
人間すなおじゃないとね


あのひとは言った

あなただって…


言い返そうとして

としはまだ蝉の鳴き声を聞いていないことに気付いた

あのガード下へ行けば
聞く
ことできるのかな

薄暗くて罅割れた壁面から地下水
滴り
落ちてぽとり
ぼとり


そんな湿った気配のなかで

ナイテイル

蝉ってさ未通女の危うい恋心

好きなのさ

ガード下を抜けたところで

ひとりのおじさんが缶を潰していた

あちこちから拾い集めてきた空き缶を

しがし叩いていた

人生って

度は誰でもぺちゃんこになるんだよ

だとしたら
ひんやりとした棺のなかで悲嘆と献花に埋もれて

たい気がして

夏の陽射しは眩しすぎると

ナイテイタ


戻る   Point(16)