告白/nonya
 
いる

彼は新聞の折込チラシを
極めて細長く切り裂いては
カッシーニの間隙を作り出すことに余念がない

彼は電線に引っかかった月を見て
小刻みに飛び跳ねながら
タイタンでの小旅行の想い出に浸っている

彼がたまに耳をふさいでしゃがみこんでしまうのは
地球の空気があまりも濃厚で重すぎるから
水素とヘリウムの希薄な海を泳いでいたからね

彼がときどき自分の拳で自分の頭を叩くのは
壊れた言語変換装置を直そうとしているから
僕はまだ彼から名前で呼ばれたことがない

てなわけだけど

君はまだ笑っているんだね
まあそれでいいんだと思うよ
有り得ない事を受け止めよう
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