夏はいつも/
 
子どもの頃、夏はいつも眩しかった。
川の源と深い緑、僕の生まれ育った町は山あいにあって、
寒さの厳しい分夏は涼しく、
台風も滅多に訪れない、そんな所だった。

山の一呼吸とともに、夏はやって来る。
虫の声、蛙の声、声が湧き出す。
僕は川に田んぼに足を突っ込んでは、
小さな生き物を捕らえることに夢中になった。
それこそ、山影に隠された短い日が落ちるまで。

一度、離れた場所に住むいとこが遊びに来た事がある。
彼は遊びに退屈になると、
とんぼを捕まえて、水を張った洗面器に尻尾を沈め
薄黄色の卵を取り出して遊んでいた。
僕は妙な気持ちでそれを見ていた。
ただ、じっと見ていた。

子どもの頃、夏はいつも眩しかった。
それはとても特別で、僕を生き生きとさせる季節だったのだ。
冬の長く厳しい分、夏はあっという間で
いつの間にか背中を見せている。
それだから、余計に。

葱の先に赤とんぼが休むころ。
少しずつ花も枯れ、景色が黄金色を帯びるころ。
その静かな風の中で、僕は思い出だすのだ。
眩しい季節の、一片一片を。
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