『水風船』/東雲 李葉
 
水風船をぶつけられて
笑ったけど人知れず泣いてたあの子は
明くる日 きらめく水晶の舟で
だれも知らない金色の国へ だれにも告げず旅立った


水風船をぶつけて
実は謝ろうか謝るまいかと悩んでた彼は
三日後 冷たい悪魔にとり憑かれ
無数の泡にのまれた後 義足だけが浮かんできた


水風船をぶつけないでと
自身も温く濡れながら少女を庇っていた彼女は
数ヵ月前 ぎぶ・みー・ちょこれいと と異国の言葉で
痩せ細った手を引きながら ぼくと気付かず懇願した


水風船をぶつけろと
気の弱い男の子をけしかけてたあいつは
つい昨日 やけに賑やかに悪夢を見たと
狂ったように繰り返し やがて夢に閉じ込められた


水風船が飛んでいくのを
あの日 ただ眺めていただけのぼくは

水晶の底にひびを入れ
悪魔にそっと耳打ちし
甘いお菓子に毒を盛り
暗黒の夢に鍵をかけて

今日も こうしてのうのうと水風船を眺めている
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