けだものの月/カンチェルスキス
網戸のサッシの上 けだものの目で睨んでいたのは、夜の月だった
起き上がって見上げる それほど高くない場所で
私とにらみ合いをしている
背中にへばりついた安物のTシャツをつまんで 惰性の風を送る
うねるような体の形を残した敷布は 私の棺みたいだった
部屋の中は 飲みさしのトマトジュースの匂いが ぷうんとしている
流れるに任せた腕の汗は ふくれた水疱みたいで
一つ一つこわしていく
電気ストーブに身を寄せてた自分を 信じられない
吐く息の白さを思い出せない
風呂場の寒々しさをのんきに忘れている
鏡に映ってるのは、タンスと自分
蛍光灯の明かりでサッシのステンレスがぎらついてる
その向こうのすだれに映ったサッシの影色が深い
私は見惚れていた
喉が渇いて 残ったトマトジュースを飲み干した ぬるくなっていた
サッシの上 視界から消えて 揺らぐすだれははためく
まだ勝負はついてないのに けだものの月は 次の相手を見つけて
もう私を相手にしなかった
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