それから/服部聖一
ハンミョウは美しい夏の昆虫である
近づくと少し離れた場所に素早く飛び立ち
ミチオシエとも呼ばれている
あの美しく光る背中は
すべてを突き通すような夏の日差しこそふさわしい
その子がいなくなったのは、そのような夏の日であった
姪っ子が13才になるので、もう13年前の話である
墓地には石の階段があり
いちばん下から上を見上げると青の夏空が見えた
いつも 夏を象徴する空が
いつも 一つであることに感謝する
あの時の空と同じく
失うことで、今があるとするならば
その時に、それまでの私も死んだのかもしれない
もしくは、
私とともに生きている
のか
そのようなところだ
美しい背中のハンミョウが足もとから飛び立つ
石段を見上げる空色が
いつもの夏色の道をゆくのだ
暑さに流れる汗のように
世界にコトバがみちみちても
ひとの死はほんとうにたやすく
あともどりすることが出来ない
発するコトバに命を持たせるのは
そのひとの生き方しかないのだとしたら
私は何と言えばいいのだろう
ことばはとおく
ただ、夏の日に
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