夜のための水/木屋 亞万
 

人差し指を突き上げる

立ち上がる紙達は
タイルのように集まって
鰯の群れのように
部屋を泳ぎ始めた
指揮者はもちろん少女
長髪を揺らしながら笑う

吹雪って生きているのと
窓の向こうの蝉に叫ぶ
あなたたちより不自由よ
少女の声は甲高い
朝が来ると溶けてしまう
春が来ると水に戻る
つまりそれは
死ぬということ

蝉が黙ってゆく
暮れが始まる
少女の遊び相手は
さりげなく消えてゆく
死にゆくものもあれば
生き延びるものもある

死なない雪があるように
死なない蝉がいる
と思う
少女はそのどちらにも
まだ出会ったことがない

彼女の遊びは
生き抜く友達が
見つかるまで
続いてゆく

おまじないを
繰り返しては

夜がまた来る

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