無温旅程/木屋 亞万
 
旅に出るとき、私は
体温を消そうとする
体温計を握りしめて
血と水銀を反応させ
ぬかりなく冷却する



観光に行くのではない
旅に出るのだよ、私は
見られるためのものを
見たくはない、存在が
私を呼ぶのに従うだけ
彼らは偶然を装いつつ
私を人の空間から連れ
出してしまう、人間が
入れない隙間に吸われ
間者のように紛れ込む



黒い穴から白い穴へと
通り抜ける身体を襲う
千変万化する気候の渦
器官も細胞も溶け合う
隙間の向こうで、私は
体温のない存在となる
そこにいるはずのない
私、まるでいないよう
に、姿かたちが消えて
自己同一性境界
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