月面着陸/アヅサ
悲しみのない日に生まれたかった
ばらとミルクの甘い匂いだけがする午後に
僕は君とだけ生まれたかった
いまとなっては好きも嫌いも愛してるも
言わなくなって 指先だけで触れて
僕が泣くときにはそばにいるんだ
無防備なかかとに僕はどきどきするよ
いまでもね 君が笑うたびに涙が出そうで
─抱きしめても冷たいんだ、君は
みどりの庭をはだしで駆けてはいけないよ
なのに君は幼子のふりで僕を追い越していく
ふたりは青い空しか知らなかったのに
いつのまにこんな 遠くまできたんだろう
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