ホームカミング/カワグチタケシ
 
、温度と湿度がある

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そして、夏の光、鉄橋
乱雑な色彩の上を汚れた風が抜ける

岸につながれたまま朽ちていくボートにゆられる恋人たち
起動船のスクリューが河床をえぐり
小さなボートをはげしくゆさぶる
恋人たちは手をふる、笑う、みんな手をふる、日焼けした鼻で笑う

たくさんの小さな嘘にささえられた
僕らの恋は本物だった
それを僕らはホームカミングと呼び
彼らは別の名前で呼んだ

僕は窓を上げ、君の名を呼ぶ
走り過ぎる列車の轟音にまぎれて
声は君に届かない
光、色彩のむこうにも、匂いがあり、温度と湿度がある

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そして、グリーン
窓のむこうの温度が少しずつ下がる

波はおさまり、呼吸が遅くなる
光の傾斜がゆるくなる
窓のむこうには音があり、匂いがあり、温度と湿度がある
 
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