ホームカミング/カワグチタケシ
 
石の道を走る硬い車輪は不安定な振動を伝えている
ヘッドライトが照らす速度よりも先にあるもの
暗い通路をときおり横切るもの
何も見えない窓のむこうには音があり、匂いがあり、温度と湿度がある

地下三階のプラットホームの両側に断崖がある
二両の列車が同時に近づいてくる、風が吹く
上り列車、下り列車
プラットホームを挟んでヘッドライトが交錯する

速度
その時すれ違う瞬間に生れる無重力地帯
落下した涙は完璧な球体となって
空中に静止する

静かな朝、無音の雑踏だ
誰も君の涙など気にもとめない
ドアが開き、ドアが閉じる
何も見えない窓のむこうには音があり、匂いがあり、温
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