消費されるひと/恋月 ぴの
 
り残されたような一角に
その飲み屋はある
「縄のれんには演歌が良く似合う」
そんな定説を覆そうとでもしているのか
軒先のスピーカーから弾き出される大音量のバップ

安酒と黒褐色の腕が叩き出すフォービートのうねり
ジャズとは小難しく向かい合うものでは無く
日没を待ちきれぬ赤ら顔にこそ似合うのかも知れない

至上の愛の旋律が備長炭の煙を震わせ
客が客でいられる最低限のつまみと一杯のひや酒
先ほどの美術館とは直線距離にして数キロと離れぬ場所で
安酒の酔いに身を任せた私がいる

「どこでどう間違えてしまったのだろう」

そんな疑問を差し挟む余地など無い現実があり

そして
心を再び侵しはじめた孤独感から逃れようとして
なけなしの財布から無明の酒に手を伸ばす



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