悲しみについて/麒麟
気づけば
何処からかやって来た湿った重みが胸に積もって
新しく出来た傷からですら血が出ない
そんなものを悲しみとでも言うのだと思う
手遅れなのかもしれない
熱さも寒さも煩わしい
ただ温い水に揺らめいていたい
そんな事に慣れてしまったせいか
大事なものが溶けていく気がした
夢とか青さとか、そんなものが
地平の向こうをどこまでも追った
海へ出て、空へと続く階段を探した
雲の上に昇り、夜に灯を燈す街を眺めた
空にはただ流星が流れた
共に車を押して、船を漕ぎ
どこにでもあるような物を食べながら
変わらない事ばかり話した仲間は
何処かへ行ってしまった
背中のどこか
自分では手が届かないような場所へ
どうしてだろう
もう傷からは
僕の体からは血なんか出ないくせに
涙がこぼれた
そればかりが溢れた
痛いとか、もうわからないのに
悲しみが、僕から何かを隠した
何かを
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