運針の、記憶/
望月 ゆき
半分ともう半分が、縫い合わされそうになる
重なりたいと願うひとも、
たしかにいたはずなのに
空の、湿り気を帯びた産道を
ゆっくりと朝がすすみはじめる
背景に色が差し、わたしは
覚醒し、そしてしだいに世界と縫合されていく
針が、わたしを貫きながら上下すると
わたしの中で、発芽の音がする それを
どんなオノマトペでも言いあらわすことができなくて
咄嗟に、
きのうおぼえたばかりの
かけがえのないことばを叫ぶと、それは
わたしの名まえになった
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