(また)見えない人の話/吉田ぐんじょう
うに
強く手を引いて元の道へ戻してくれた
同じクラスだったがその子の机はいつも無くて
ただ教室の後ろに立ち
切望するような眼で黒板を見ていた
卒業してから不思議に思った
わたしはその子の名前を知らない
一緒だったのは毎朝の登校時だけだった
卒業アルバムを見れば
わかるだろうと思ってめくってみたが
そんな子は居なかった
家族も覚えていないと言うし
なんだか切ない
切れ長の眼をしたおかっぱの女の子だった
ある時何かのはずみで
あたしは必要の無い子供だから
と言ったあの子の横顔を思い出す
そんなことなかった
少なくともわたしにだけは多分死ぬまで
寄り道から引き戻してくれるあの子が必要だったのに
もう言えない
たぶん二度と会えないし
それでもこんなにやさしい人々がいたと
誰かに伝えたくて一心に指を動かしている
濃い青空の広がる夏
道端で雑草を摘んでいたわたし
地平線まで続く土を踏んで
半透明の人が手を振っている
涼しい風が吹いて
麦藁帽子が飛んだ
それを笑って追いかけた日々
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