(また)見えない人の話/吉田ぐんじょう
 
わたしの生まれ育った村には
鮮やかな花が咲いていて
広大な田地が広がっている
野良犬がそこらじゅうにべとっと寝ていて
曖昧な微笑みを浮かべる村人と
いないはずの人たちが生きていた

たとえば幼稚園生だった頃に
ご飯だよ と毎日公園まで呼びに来る
灰色の服を着た男の人は
家族でも親戚でも友達のお父さんでもなかった

いつも素直についていったけれど
家の前を過ぎてもまだ歩こうとするので
ここが家だからと言って手を振り払っていた
手を振り払わなかったら
いったいどこへつれていかれただろうか
でも悪い人ではなかったように思う
かすんだような記憶の彼方に
そういう類の思
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