夏/榊 慧
思われ。少年は白のタンクトップに大粒の雫を垂らし、女に駆け寄る。女は慈愛のこもった白い腕を伸ばし少年を近づける。少年の柔らかな髪がまぶしい。
女、それでも嘲っているような表情が崩れることはなかった。男は右手で殴り続ける。左手は女の頭部を押さえつけている。男の表情は今にも死んでしまいそうに、ぎりぎりだ。女は切羽詰った声をあげるとするりと台所に立ち、希望に満ちた様子で出刃包丁の先端を喉に喰い込ませた。「夏は、危険。」鮮烈なその色は男を崩すには充分だった。女はそのままシンクにぶつかり、倒れこむ。「夏なんて、」 青色のワンピースが黒ずんでいく様を、男は直視できないまま、「ふふ、弱いの、ね」
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