「ただいま」/小原あき
」
玄関に小さな蛙の置物を置いている
実家の近所の魔女みたいな顔をしたおばさんが
どこかのお土産にくれたもの
ずいぶん前からうちの玄関の靴箱の上
掃除する時、埃に紛れて捨ててしまいそうなほど
小さな蛙だ
誤って捨ててしまったのは
一昨日だったか
そんなことを気に留めるほど
わたしは暇ではなかった
手の中で「ただいま」が
まだそのお腹を膨らましたまま
だけど、絶命していた
お腹に触れてみた
少し肥満気味だった夫の
だけど、わたしの一番愛しい感触に
よく似ていた
涙なんて流すわけない
もう梅雨は明けたはずなのに
外では遅れた雨雲が
飛ぶタイミングを見失った「ただいま」たちを
洗い流そうと必死なんだから
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