遠ざかるひと/恋月 ぴの
れるとはどんなことかと思い巡らす
紅白のピエロの服を着せられて
旅から旅への日々
背負う行李に
外れぬままのお面の下でくやし涙を流したり
旅先で出逢う心優しい少女の横顔に
生き別れた妹の姿を宿し
望む夜空にふたり遊んだ小川のせせらぎを聴く
(3)
雲一つ無い青空に照りつける夏の陽射し
影法師さえもその姿を隠し
街路樹はただひたすらと耐え忍ぶばかりで
無機質に焼けた歩道に
男がひとり
こちらへ背を向け佇んでいた
その男の肩に手をかけようとして
狐のお面を被った男の行方を尋ねようとして
わたしは陽炎の立ち昇る歩道を走った
息を切らし
噴出す汗を拭おうともせずに
(4)
あまりの寝苦しさに目を覚ます
相変わらず狐のお面は取れぬままで
今しがたまで見ていた夢を想う
わたしに良く似た男が走り寄ってくる
肩に手をかけようとして
狐のお面に気付き驚愕の眼差しを向けた
ぜえぜえと荒い息を吐き
噴出す汗を拭おうともせず凍て付いたままの男
そして紅白のピエロの服を着た男
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