遠ざかるひと/恋月 ぴの
 
(1)

明日と言う日の訪れを恐れるときがある
気を紛らわすことさえままならず
早々に床についたとしても
考えるのは埒のあかないことばかりで
苦し紛れの寝返りを打てば
人の気も知らず目覚し時計は時を刻む

そして寝付けぬままに朝を迎えれば
何一つ変わること無く
今日という日がただそこに在る
あれほど思い悩んだ明日と言う日は
わたしを突き放したような素振りを見せて
熱帯夜の向う側へ遠のいてしまう


(2)

縁日で買ってもらった狐のお面が
外れなくなった夢を見た
この子をサーカスに売ってしまおうかと
話し合うひそひそ声に聞き耳を立て
サーカスに売られる
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