寝不足に濁る瞳
よだれはだらしなく垂れ
虚しさ止まらぬポチ公
部屋の片隅にある
冷凍の水蜜桃を嗅いで
紅の月と兎が踊る暖簾
ハサミで刻まれて揺れる
切り絵が描かれていた
暖簾の風穴には隙間を
埋めていけとばかりに
切り子細工の風鈴
高音に黄緑透けて
ポトスによだれを
浴びせていたポチ公が
ポストのカタンに
夏風の便りを聞く
バイクのカランに
絡んで飛び出す
かつての居場所だった
木漏れ日はねこそぎ
枯れていた
水蜜桃が目覚め
皺に滲んでいく手足
美しい形状を残して
衰えては熟す背中
熟睡はよしだけど
永眠は駄目だから
机に便箋
甘桃が薫る部屋
主は秋には帰ってくる
ポチ公はなぜか不安で
体調も歳のためか不安定
甘桃の水分も枯れ
張りはとうに失せ
居場所すら消えていた
蜜ごと思い出に凍る頭は
記憶の行方を知らずに
言葉がうまく流れ
ないようになって
秋を待つのみの
ポチ公