喪失の森/結城 森士
で自分の家へ戻ると
ベッドにはかつて私だった者の姿がある
その者は、嗤いもせず、鳴きもせず
ただじっと森の方を眺めている
その時、かつて私だった者と私が
別物の存在になったことを知った
全てが失われたのだということを
月は囁く
「不自由な鳥が、籠の中から出ようとしてもがき続けていると
そのうちに精神だけが籠の外に出てしまうことになる」
遥か遠くの森の奥
一羽の鳥が鳴いていた
意識は一歩一歩
現実から遠ざかっていく
言葉は闇に紛れて消えた
名前すら、母の顔すら
喪失の奥
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