喪失の森/結城 森士
 
遠く、鳥が鳴いている
意識は一歩一歩夜に近づいていく
遠く、母が鳴いている
風に揺られて木の葉が騒いでいる
耳の奥の会話が言葉を奪っていく
私がベッドの上で窓の外を見ていると
母の顔をした鳥が森の中へ飛んでいく


月、囁くと
「籠の中の鳥は、籠から出ようとしているときは不自由だが
 籠の中から出られないと分かったときに自由になる」


母の面影を追って
私は森の中へ入る
夜風は
私の名をさらって闇に消えて
言葉は失われたまま
名前を呼び続ける鳥
木の葉がざわざわと笑っている
一輪の待宵草に
私は尋ねる
「母の顔をした鳥を見ませんでしたか?」
待宵草
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