コモンセンス/結城 森士
 
思わずため息が出た。
とことん甘い。
「コーヒーをお願い。苦いやつね」
笑った。とびきり下品に。
外は雨が降っていて、空は白かった。
皆、カラフルな傘を持っている。この町は曇りでも明るい。
「私はあなたが好きだけど、あなたのことは絶対に許さない」
言ったよね。それはさっき言ったはずだ。4回目。いい加減消えてほしい。
チョコレートパフェはあなたのおごりなのかな。

街で買い物をしている時に
ショー・ウィンドウに映る黄色い表示、赤い点滅。
「何か言った?」
それは窓についた、透明な雨のしずく。
ブルー、イエロー、レッド、レッド、ブルー。
4分も無視し続けたら、そりゃ顔色も変わるよ。

静かな街。雨の音さえ、かき消す視線。
早く帰ればいい。早く帰路につきながら、
泣きながらパソコンを立ち上げて、
馬鹿なサイトを見て笑って、
愚かな自分を冷静に分析すればいいじゃない。
一刻も早く帰ればいい。
それが無理ならフリーズしてしまえばいい。
共通の話題がないから
共通の意識でお互いにそう考えていた。
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