夏の変なこと或いは、幽霊の始まり/吉田ぐんじょう
 

川底いちめんに
青白い子供たちの顔が
隙間なく敷き詰められて
にこにこ笑っている
岸辺で何かを探すように
水底を見回しているのは母親たちだ
自分の息子や娘を探しているのであろう
でも みんな同じ顔をしているから
幾日探したって見つけられない

名前を呼んだって全員が全員
まるで返事をするかのように
岸辺の草を揺らすのだ


真昼の太陽は硝子の破片のような
鋭い光を降らしつづける
あんまり強く降らすから
地上に立っている人たちは
少し血を吐きながら歩いてゆく


夕暮れは幻のような薔薇色
染まってゆく地平やビル群
惨殺事件のあとのような

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