「退屈が僕を殺す」/ベンジャミン
 
雨には匂いがあると思った

昼下がり
蒸しあがった空気と入れかわるようにして
突然降りだした雨の
湿った冷気が部屋を満たしてゆく

「雨だ」と
呟いたかどうかはさだかではないが
そんなタイミングだった



 かつて原爆が落とされたヒロシマで
 キノコ雲が降らせた雨は黒かったという
 肌を透過して入り込んでくるものが
 何なのかも知らずに
 ただ漠然とした死の恐怖の中で
 多くの人々が死んだ



知らないということは

ある意味しあわせで
ある意味残酷だと思った

雨が入り込まないように閉めた窓
カーテンには窓についた雨粒が
まるで涙のように流れている
いったい誰の涙なのだろう
なんて

わかるはずもない

何をすることもなく部屋の中
何をすべきか知らないままの僕は

そんな退屈に
殺されるのではないかと怯えていた

戻る   Point(3)