「退屈が僕を殺す」/ベンジャミン
雨には匂いがあると思った
昼下がり
蒸しあがった空気と入れかわるようにして
突然降りだした雨の
湿った冷気が部屋を満たしてゆく
「雨だ」と
呟いたかどうかはさだかではないが
そんなタイミングだった
かつて原爆が落とされたヒロシマで
キノコ雲が降らせた雨は黒かったという
肌を透過して入り込んでくるものが
何なのかも知らずに
ただ漠然とした死の恐怖の中で
多くの人々が死んだ
知らないということは
ある意味しあわせで
ある意味残酷だと思った
雨が入り込まないように閉めた窓
カーテンには窓についた雨粒が
まるで涙のように流れている
いったい誰の涙なのだろう
なんて
わかるはずもない
何をすることもなく部屋の中
何をすべきか知らないままの僕は
そんな退屈に
殺されるのではないかと怯えていた
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