雨飼い/clef
六月のうちに、
してしまわなければならないことがあった。
思い出そうとして思い出せないまま、今、雨を見ている。
湿気が増して空気が濃くなると
呼吸しにくくなるからね
だけどその分身体は軽くなって、浮くのよ
浮いた身体に落ちてくる雨粒は、
重さが硬さに変わり、
くすんだ蒼になって、
窪んだところから入りこむ。
落ちつく先はわたしでなくてもよいのだから、
道をつくって逃がすこともできた。
だのに、逃がさなかった。
そうやって、蒼くくすんだ雨を飼っている。
雨粒は、ガラス越しに打ちつける雨を見ていた。
帰りたいんじゃないの、と訊くと
ううん、とかぶりを振る。
でも、私がいたから口ごもってしまったのかもしれない。
湿気でふやけた景色が
広く見えるのは
世界からすこし、身を引いているからなの
そう雨粒は云った。
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