タンゴ・ダンサー/渡 ひろこ
 
タンゴの旋律に
呼吸を合わせるように
茜色のロウソクの火が
ゆらめいている


凪だった水面(みなも)を掻き立て
眠っていた感情に爪を立て
ゆさぶりながら


身体の中を貫いていく音


狂おしい想いのはけ口を求めて
逆流していく潮(うしお)が
そのまま大波となって
ステージに向かって砕けていく



しぶきをあげる波間から
振りあがったのは
つまさきまでピンと一本の線になった
真っ直ぐな決意の白い脚
凛とした背中で
男と女の刹那を語る



赤いピンヒールが
力強く床を鳴らし宙を駆ける
しなやかな脚が
速いリズムに酔う
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