海辺の詩集/嘉野千尋
 

 *灯台

   かすかにまだ
   光っている
   間違えたままの、
   やさしい思い出
   わたしの幸福な思い違いを
   あなたは
   そのままにしてしまったから
   残酷なやさしさに生かされている
   本当はもう、
   さよならをしたかった心



 *梔子

   初夏
   木漏れ日に目を細め
   恋しいひとが
   こちらにむかって
   やさしい腕を差し伸べたきり
   神話の中のダフネのように
   物言わぬ樹になっているので
   わたしも何も言わず
   差し伸べられた枝先に
   白い花をつけていく

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