色のない種/麒麟
 
見渡す限り、白い世界がどこまでも続いている
ある一点にだけ古びた椅子があった
木片を適当に組み合わせた揺すり椅子
どこからか現れた白髪の老人が腰掛けた
皴枯れた手に一つだけ持つ
“色のない種”を両手に包み込んで

老人は目を開かなかった
やがて椅子との見分けがつかなくなる頃
両手だった場所は記憶され
世界の中心として刻まれた
はずだった

それは僕らが初めて見た記憶
彼の種はニセモノだった

白一色の血脈に
空の青
暮れゆく赤
月の黄色が流れ込んだ
中心へ流れ込んだ三色は
透けた管を破り
徐々に全てを滲ませた
原色ではいられなかった

やがて黒い世界がどこまでも続くようになった
椅子だけは変わらずそこにあった
次の者が訪れるまで
椅子はゆるりと揺れていた

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