『トワイライト』/東雲 李葉
こんなに穏やかな夜だから、
少し昔の話をしようか。
退屈なら眠ってくれていて構わない。
俺は今気分が良いんだ。
煙草の煙は嫌いじゃない、って、
あの時言ったことを憶えているか。
多分一生忘れられない。
一緒にいられてよかったよ。
淋しいからって人形を抱いてた夜だって、
思えば下らないことで悩んでいたもんだ。
終わってしまえば意味なんて気化してしまうというのに。
吸い込んでまで閉じ込めておきたい、大切なものは抜かしてさ。
思えば多くを捨ててきた。拾ったものはこれっぽっちもない。
今まで本当に大切なものなんてあっただろうか。
そんな恨めしい顔をするなよ。
俺はそういう奴なんだよ。
例えば明日世界が終わりを迎えるとして、
俺には何が出来るだろう。
誰に一番会いたいのだろう。
すべての答えはもうそれでいい気がしてきた。
こんなに穏やかな夜だから、
少し未来の話をしようか。
え、もう寝かせてくれって?
退屈なら眠っていいと、最初に言っておいたはずだけどな。
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