イニシェーション/木屋 亞万
 

振り返ってはいけない
前がわからなくなってしまう
声を出してもいけない
進んでいる事に
気付かれてしまう
前だけを見つめて
トンネルを抜けるまでは


遠くに小さく見える光
出口にたどり着くまで
後ろの仲間の安否すら
確認できないまま
自分を保つのに手一杯

行きの道程は車だった
トンネルを蛇行しながら
誰ひとり知り合いでない
他人が5人
特に会話らしい会話もなく
一人ひとりが独り言のように
悩み事をつぶやいて
答えるでも聞くでもなく
他の者は頷いているだけ

トンネルを抜けた先に
硝子張りの建物があった
かつては山中に美しく

[次のページ]
戻る   Point(3)