夜の幻覚/吉田ぐんじょう
幼い頃は
兄と妹と三人で
床を並べて寝ていた
がっしりした骨格の子供だったが
神経質で泣き虫なわたしの為
寝室はいつも完全な暗闇にならないよう
蛍光灯の一番小さな橙の光がともされ
両親は呼べばすぐ来られるように
襖を細く開けて隣の部屋に寝ていた
ある年の夏のこと
湿度が八十パーセント
気温が三十度を下らない夜だった
他の二人は死んでいるみたいに
手を組み合わせてすやすや眠っている
暗闇の粒子がとても大きくて
呼吸をするたびに喉に引っかかるので
わたしは咳をしながら眼を開いていた
枕元には
何の胎児だろう
眼だけぎょろぎょろした襞だらけのかた
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