コップ/アンテ
るだろう
それがもとのコップかどうか
だれにも判らない
身体はようやく頭を見つけて
両手で拾い上げる
高く掲げる
首の断面から
一滴 また一滴
わたしがこぼれ落ちる
床に広がって
わたしでないものに変わる
頭が空っぽになって
空洞をミネラルウォーターできれいに洗って
身体はぎこちない動作で
首の断面を重ね合わせる
じっと押さえていると
身体と頭がもとどおりに繋がる
試しに発声すると
あー あー
すこし嗄れた音が出る
鏡で確かめると
首にうっすらと赤いラインが残っている
床に足を投げ出して座り
コップの水を飲む
肌にじっとりと汗が浮かぶ
死んだ身体は
なぜ二度と人にはなれないのだろう
コップを壁に投げつけると
小さな破片になって散らばる
中身が空っぽでも
形さえ保っていれば
コップはコップだ
耳をすませると
身体の内側を循環する水の音が聞こえる
生きているのだろうか
判らない
死んでいるのだろうか
判らない
鋸に手をのばす
赤いラインが
身体のあちこちに残っている
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