「コインロッカー」/ベンジャミン
何か大切なものを
過去に忘れてきてしまった
そんな気がする
握りしめた手の中には
小さな鍵がひとつ
それが何の鍵なのか
それも思い出せない
わからないまま街を歩いた
見覚えのある景色
だけど生きている実感がない
握りしめた手の中には
小さな鍵がひとつ
すいこまれるように
近くの駅のコインロッカーの前
期限切れが近づいている
一番すみっこのそれに
小さな鍵を差し込んだ
カチャリと古びた金属音
ギギギと鈍く開く音
中には一枚の紙切れが入っていて
たった一言
「今」と書かれていた
戻る 編 削 Point(7)