終末の過ごし方/及川三貴
紫陽花が雨に震えている
市街の外れ 朽ちた街灯の列
仄暗い午後を導いて
古い測候所の庇から
傘の中のあなたを観ている
声は囁き 雨に溶け込んで
曇天の高いところでは
衛星たちの最期
尾を引いて産まれ続ける薄青い光
水平線で明滅しては 軌道から
次々に零れていく
あなたはそれを飽きもせずに
眺めていて ここも
と振り返る髪が湿気に濡れている
傘を差し出す手を握れば
時間を止められるような気がして
踏み出した
あなたの髪を探って
青い光を数える
もう帰ることのない部屋の中で
鳴り続けるファド
最後に入れた珈琲がまだ暖かく
あなたはきれいな指で
花を手折り私に差し出す
紫陽花は滴を纏ったまま
傘が閉じられる
潮騒が海に沈んだ街々を慰めて
鳶たちの旋回 青い光を目指して
飛んでゆく もう近いんだね
と鼻歌静かに雨の隙間を縫って
強く形を
保ったままで
こころが
傷つかないように
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