無人駅のひと/恋月 ぴの
(1)
あなたにはじめて出逢ったのは
この廃屋が未だ駅舎として機能していた頃のこと
夏草の浸食に怯える赤錆びた鉄路と
剥がれかけた青森ねぶた祭りのポスターが一枚
この駅を訪れるひとと言えば夏山登山の客か
写真家ぐらいなものなのに
その何れでもない風体のあなたは
人目を避けるように待合室の古びた壁へ寄りかかり
しきりに時刻表を気にしていた
(2)
どちらから話しかけたのだろう
実家から東京のアパートへ戻るわたしと
何故この駅を訪れることになったのかさえ語ろうとしないあなたに
ほんの僅かな接点さえ有り得る筈は無かったのに
いつの間にかあなたはわたしのア
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